春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
屋上から身を投げようとした主人公を、偶然そこに訪れていた少女が止める。その出会いをきっかけに二人は距離を縮めていくが、男は少女の前から去ってしまう。

その後、二人はどうなったのか分からない、後味が悪いラブストーリーだ。


身を投げようとしていた主人公と維月が重なって見えた私は、翌日維月は屋上に来ないと思ったのだ。その本の主人公と同じように、翌日は屋上ではなく水辺に行くんじゃないか、と。

あの時は、何となく、そう思ったのだ。


「…どうしてだと思う?」


「え?」


街並みを見渡していた維月が、私の方を向いた。

先ほどとは打って変わった真剣な表情で私を見つめている。


「どうして男は少女と別れたと思う?」


それは、小説の話?
主人公が少女の元から去った理由を聞いているの?


「どうしてって…」


そんなの、分かるわけがないじゃないか。その理由となる描写は書かれていなかったのだから。

あの作品は、読者の想像に任せるといっても過言ではない結末なのだ。それが魅力の一つだとあなたは言っていたし。
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