春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
私の姉の名は、古織瑞茄(みずな)。

私よりも五つ年上で、現在は社会人。二年前に家を出ていて、今はファッション関係の仕事をしていると聞いた。

モデル並みに綺麗で、美しくて、輝く宝石のような女性だ。

周囲からは羨ましがられたことも多々あった。

私も、優しくて綺麗な彼女が、自慢の姉だった。

だった、のに。


「―――なんで辛気臭い顔してるの?」


時刻は十二時を半分ほど過ぎた頃。

購買へお昼ご飯を買いに行った、聡美を待つ私の元へと彼はやって来た。


「(りとくん…)」


「りとでいいよ」


艶やかな黒髪と紺色の瞳を持つ、端正な顔立ちの男の子。

諏訪くんと仲が良いらしいが、教室で一緒にいるところを見たことはない。謎が多い人だ。


彼は私の前の席――いつも昼休みに聡美が座る場所に腰を下ろすと、サンドイッチのフィルムを剥がし始めた。


「で、何を悩んでるの?」


「(悩みというか…)」


苦笑を漏らしながら、手に持っていたペットボトルの蓋をギュッと閉めた。
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