春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
私の唇の動き。

ちょっとした仕草。

どんなに小さなことをも見逃さない、真っすぐな瞳が私を射抜く。


「(…お姉ちゃんのことなんだけどね)」


「うん」


「(数日前、急に帰ってきて)」


私は姉がいること。十二年前に家族になったことを話した。

血縁関係はないが、普通の姉妹のように仲が良かったはずなのだが…


「…いつから仲が悪いの?」


りとは私の唇を見つめながら、サンドイッチを食べ始めた。


「(それが、いつからなのかが分からないの。急ってわけでもない気がして…)」


「……分からない?」


りとは眉根を寄せた。

今の話でどこかに引っかかったのかもしれないが、特に何も訊かれなかったから話を続けた。


「(この前、私は自分のことが分からないって、言ったでしょう?)」


「うん」


「(それに関係があるのかなって…)」


「………」


りとは押し黙った。

長いまつ毛がゆっくりと伏せられる。

考え事をしているのか、そうでないのか分からないけれど、私の目には風を感じているように見えた。
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