春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

しづ心なく

今日はやけに視線を感じる。

気のせいだと思って、気にしないように努めていたのだけれど。


「…なんか、見られてる？」


私と同じくそう思ったらしい聡美が苦笑を漏らした。

それに賛同するように頷き、携帯の画面に文字を打ち込んでいく。


【気のせいじゃないと思う】


「あはは、だよねー」


ただ見られるだけなら構わないのだが、ジロジロと品定めをするように見られ、陰で何かを囁かれているのだ。
気になって仕方がない。


「あたし、何かしたかなぁ」


ポツリと消え入りそうな声が落ちる。

隣を歩く聡美の顔を盗み見れば、ほんの少し眉尻が下がっていた。


「まぁしたといえば、したんだけどさ。でも、あれは両成敗だと思うんだよね」


「（…違うよ、聡美）」


聡美がふわりと振り向いた。

今、何か言わなかった？と、小首を傾げている。

最近の聡美は私に対して鋭くなった。

私の母親やりと程ではないが、私が言おうとしていることを何となく感じて、読み取ってくれるのだ。

私は左右に首を振り、頰を緩めた。


「（何も、言っていないよ）」


「…そっか」


聡美は安心したように笑った。
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