ヒロインの条件

「ほら、これ」
私はそれを受け取ると「ちょっと、お兄ちゃんっ!」と声を上げた。

「人の郵便物を隠すなんて、ひどいっ」
「お前のためを思ってやったんだよ。柔道に雑念は必要ないから」
「もうっ」

封筒はずしりと重く、中の手紙は何枚にも及ぶことが想像できた。

「これで隠し事は終わり。塩見が連絡してきたって、どうやってだよ」
お兄ちゃんはソファに深くもたれると、背もたれに両腕を伸ばす。

「『ブライトテクノロジー』に入社したんだもの」
「『ブライトテクノロジー』? 塩見の会社じゃないか」
「そう」

お兄ちゃんは眉を吊り上げて「あいつ、社長の立場を使ってパワハラじゃねーか」と怒った。

「違う違う。全然そんなんじゃない。すごく誠実にしてくれてる」
そう言って、自分で気がついた。

そうだ、佐伯さんは私のことをとっても大事にしてくれてたんだ。それなのに過去にこだわって、佐伯さんを傷つけちゃった。謝りたい、ちゃんと。

「まさか花、塩見と付き合うとか言わないよな?」
すごく心配そうにお兄ちゃんが言うので、「私大人だもん。自由でしょ」と答えた。

「うわー、そりゃまずい」
お兄ちゃんがしかめる。

「なんで? 関係ないと思うけど」
そう言うと、お兄ちゃんは「はあ、複雑」とつぶやいた。「俺の今の彼女、塩見の元カノなんだよな」

「元カノ? まさか坂上さん?」
私が言うとお兄ちゃんが「なんで知ってるんだよ」と言う。

『バカ兄貴に聞いてみなよ』

坂上さんが言ってた言葉を思い出す。

「バカ兄貴だって」
私はなんだか笑えてきた。

「なんだよ、バカって」
お兄ちゃんが眉間にしわを寄せる。私は笑いながらソファから立ち上がった。

「ありがとう、お兄ちゃん。全部解決した」
「そうか? まあ、手紙を隠したこと、悪かったよ」

お兄ちゃんはそう言って、気まずそうに唇の端を少し上げて笑った。
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