ヒロインの条件
私はタンタンタンとリズムを刻んでいた足を止めて、暗い道の途中でポツンと一人立ちつくした。
「あーまったく」
私は一つに結んだ髪を右手できゅっと引っ張り、それから頬をパンッと叩いた。
「女々しいぞ、私! 勘違いだって何だっていいよっ。こんなの楽しんだもん勝ちでしょ?」
そう声に出すと、なんだか気持ちが浮いてきた。
そうだ、楽しんじゃえ。二度とないよ、こんなこと。
自然とにぃっと笑みが出てきて、ウキウキもしてきた。私って単純、でもだからこそ勝負の世界にずっといられたんだよね。
私は再び走り出した。相変わらず頭の中に佐伯さんはいるけれど、今度は楽しい妄想ばかりが浮かんでくる。
見知らぬイケメンから告白されて、それが社長で天才プログラマーだなんて、もう漫画の王道中の王道じゃん。女子はみんな高スペックイケメンから、身に覚えのない好意をもらいたいの。現実世界ではありえないけど、漫画だとできちゃう。私だけを見てくれる王子様が欲しい。
「今のわたしは、絶対にヒロイン!」
拳を上げるとスカっとする。スピードを上げて最後の曲がり角を目指す。
王道でいくなら、次は同居だよね。ひょんなことから同居、もしくは偽装結婚。あはは、どっちもありえないけどーっ。
猛スピードで最後の角を曲がったとたん、つんのめるように足が急ブレーキがかかった。