突然ですが、オオカミ御曹司と政略結婚いたします
 心配そうに見つめていると、ふと彼がこちらを向いた。会話をしていたはずの彼は、視線だけをこちらに流してふっと微笑む。私は勢い良く視線を逸らした。

 心臓に悪い……。自覚してしまったら、途端に今までどんなふうに接していたかわからなくなってしまった。

 胸を押さえ、鼓動を落ち着かせる。すると、祖父の近くに立っている真紘の姿を見つけた。

 落ち着かせたばかりなのに、また心臓は跳ねる。

 真紘が、私のことを好きだったなんて……。

 慌ただしいおかげで冷静だった頭の中は、一気に掻き乱れた。

 ……全然気がつかなかった。

 私が子供のころ、おじいちゃんに怒られて拗ねているときも、お茶会で粗相をしてしまって落ち込んでいたときも、何気ない日々も、いつも真紘と一緒にいた。

 まさか、そんな想いを隠していたなんて。

 今日までずっと変わらない彼の態度に、疑問すら抱いたことはなかった。この婚約を聞いたときは、どんな気持ちだったんだろう。想像すると、胸がいっぱいになって苦しくなった。

 足先に力が入る。私は人の波の合間を縫いながら彼のもとへと近づいた。
< 114 / 128 >

この作品をシェア

pagetop