突然ですが、オオカミ御曹司と政略結婚いたします
「『どうして私がそんなこと思うの? あなたとは初めて会うのに』ってすごく嫌そうな顔してそう言ったお前に、ひどくほっとした。気持ち悪いと思う俺がおかしいのかもしれない。父さんのように壊れる前に、いっそ、感情なんて捨ててただトップになるための人形として生きられたらなんて思い始めていた俺に、お前はこの違和感が正しいということを思い出させてくれた。お前がいたから、今日まで心を捨てないでいられたんだ」

 胸に温かいものが込み上げてくるのを感じる。

 今はもういないそのときの彼の手を、無性に握り締めてあげたくなった。

「ただ、思ったことを言っただけよ。そんな大それたことをするつもりなんてなかったわ」

「何気ない言葉だったから、心の底から出た本心だったから、良かったんだ。いつか、必ず会って言いたいと思ってた。――ありがとう、日菜子。あのときの俺に出会ってくれて」

 溢れる思いに恍惚とした表情で告げられる。堪え切れず、私は目の前の彼の手を握り締めた。一瞬驚いて目を瞬かせた彼は、すぐに嬉しそうに屈託のない笑顔を浮かべる。
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