夢の言葉は魔法の呪文【改訂版】

だが。
俺のそんな気持ちとは違って、成長したガキ……。
アカリに、あの日の笑顔はなかった。

長い黒髪を風になびかせて、砂浜に佇むアカリは今にも泣き出しそうな表情で暗い海を見つめている。
靴も履かず、裸足で駆けてきたのか、足は傷だらけだ。


ズキンッて、胸が、痛んだ。

母親が夜いなくても。
一人で留守番していても、決して泣いていなかったアイツが……。
他人の俺に微笑ってたアイツが……。

アカリが……。
独りぼっちで、泣いていた。

正確には、涙を流してはいない。
けれど俺には、泣きわめく姿よりもアイツが深く泣いているように見えたんだ。

目が……。

ーーいや。
俺の全てが、アカリを捕えて離れられない。


俺が見ている事も知らず、アカリはゆっくりと波打ち際に歩いて行き……。
そのまま、海の中へ足を進めて行く……。
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