俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
「毎年、『墓参りくらい行ったらどうですか』と声をかけても、なにかと仕事を入れて聞く耳を持たないんですよ。でも、あなたなら彼の考えを変えられるかもしれません。ただの直感ですが」


私なら、彼の考えを変えられる? それは難しい気が……。

でも、確かに二十六日は取引先であるハースキッチンの社長との会食が入っていたはず。不破さんはあえてその日にしたのだろうか。

私もお墓参りはしたほうがいいと思う。意地や罪悪感があって行くことを拒んでいるのなら、それを取り除いてあげたい、とも。

胸がざわめく感覚を抱いて歩いていると、あっという間に駅に着いていた。桐原さんは何線なのか聞いていなかったことを思い出し、問いかけようとしたとき、足を立めた彼が先に口を開く。


「では、お気をつけて」

「あれっ、桐原さんも電車じゃないんですか?」

「私はタクシーで帰ります。『せめて駅まではアリサを送れ。でも家までは行くな』と、誰かさんが細かいので」


思いがけない言葉に、私は目をしばたたかせる。

誰かさんって、絶対不破さんだよね? あの人が私のことを気にかけて過保護っぽい指示をしていたとは、意外すぎる。
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