俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
しかも、送れと言っているのに『家までは行くな』って、もしや桐原さんを警戒してのことだろうか。

不破さんがなぜそんな指示を出したのかを考えてみると、私のことを大事に想ってくれているのでは、なんて自惚れた理由が真っ先に浮かんでしまってドキリとする。

まさかそこまで大袈裟な理由ではないだろうけど、万が一そうだとしたら……ちょっと嬉しいかも。

ほろ酔いの頭で能天気に考えていたものの、向き合う桐原さんが私に一歩近づいたことで意識がそちらへと逸れる。

中指で押し上げた眼鏡がきらりと光った瞬間、その奥の瞳に普段見たことのない鋭さが宿ったように感じ、私は目を見張った。


「あの人はあなたを託すほど私を信用しているみたいですが……もし私自身が狼だったら、どうするんでしょうね」


その発言にも、声にも、なにやら妖しげな雰囲気が漂っている。突如セクシーさを醸し出す彼が半径数十センチまで距離を縮めてきて、どぎまぎしてしまう。


「き、桐原さん? あのっ──」


半歩後ずさったものの、彼の手が私の頬に伸びてきて、ストレートの長い髪をそっと掻き分ける。そして、少し身体を屈めて両手を首の後ろに回してきた。
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