俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
つまり、こんな愛想のないやり取りをしていても、桐原は恩人であり、特別大切な仲間なのだ。なんだかんだ言って俺にくっついているこいつを、可愛く思ったりもするし。

だから、もし本当に麗のことを想っているのなら、なにも口出ししないつもりでいるが……。


「とにかく、有咲さんのことは俺に任せて。幸せにしてみせるから、必ず」


自信ありげにそう宣言されると、胸の奥が焦げつくほどじりじりと焼けるような感覚を覚えた。これが嫉妬だということは十分わかっている。

しかし、俺にそんな感情を抱く資格はないのだ。彼女より、父の店を守るほうを選んだのだから──。

この選択でいいのだと自分に言い聞かせ、それからも桐原と悪態をつき合いながら酒を酌み交わし、なんとも後味の悪い一年の最終日を過ごした。


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