俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
呆然と彼を見送る私に、桐原専務が苦笑を漏らして声をかける。


「すみません。社長はこうと決めたらやらなければ気が済まない人なので」


彼は呆れと申し訳なさが混ざったような調子で言い、軽く頭を下げて社長のあとを追っていく。

ふたりの後ろ姿が閉まる扉で遮断され、今度は下降を始める箱の中、私は信じられない思いで名刺を見下ろす。

なに、この展開。お近づきになれることなんて絶対にないと思っていたのに、まさかこんなことになるとは……!

危うくまた四階で降りるのを忘れてしまいそうになるほど、私は今夜のことで頭がいっぱいになっていた。


 *


定時の六時に仕事を終え、軽くメイクを直してから最寄りの東京駅に向かった。

不破社長に指定されたお店を先ほどネットで調べたところ、地下にある高級そうなバーであることが判明。

こんなところに行き慣れていない私は、緊張と不安でいっぱいになっている。

服装はというと、普段からフェミニンカジュアルを好む私は、今日もリブニットにラップスカートを合わせたスタイルで、あまりにも場違いな格好ではないから大丈夫だろう。

< 44 / 261 >

この作品をシェア

pagetop