異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「だからあんたは鈍ちんなのよ。王子の爽やかな笑顔は本心を悟られないための鎧」

「そうそう」

 アスナさんはローズさんの話に相槌を打って、首飾りと同じサファイアの耳飾りをつけてくれる。男性に耳を触られて落ち着かなくなっていると、それを見透かしたようにアスナさんは「照れちゃって可愛いね」と顔をのぞき込んでくる。

「あの人は立場上、腹の探り合いも多いから。なににも動じないように見えて実は熱い男なんだよ。俺たちが若菜ちゃんと出掛けたなんて知ったら、暗殺されるかも」

「物騒ですよ、アスナさん。シェイド……様はそんなことしません」

 私を大切に思っているのと同じように、彼が月光十字軍の皆のことも大事にしているのを知っている。アスナさんの心配は杞憂に終わるだろうけれど、シェイドがそこまで自分を想っていてくれたらいいのにと欲張りにも考えた。

「シェイド王子のことを信頼してるんだね。その言葉を着飾った姿で若菜ちゃんの口から直接聞かせてやってよ」

 そう言うアスナさんも私のドレスを選んでくれたローズさんも、シェイド王子を慕っているのだとわかる。

 私はふたりの厚意に心が和らぐのを感じながら、異世界に飛ばされて彼らという素敵な仲間と出会えた自分は恵まれているなと実感していた。


 夕方になってアスナさんとローズさんと一緒に城に帰ってくると、真っ先にダガロフさんに見つかった。

「お前たち……若菜さんに迷惑をかけるなと、あれほど言っただろうが!」

 鬼の形相でダガロフさんの雷が落ちる。薔薇園の横にある渡り廊下で正座させられているアスナさんとローズさん。騎士が子供のように叱られている姿を使用人たちは二度見して唖然としながら通り過ぎていく。

 見かねた私は助け舟を出すことにした。

「ダガロフさん、心配かけてすみません。私が町についてきてほしいと頼んだんです」

 心配して怒ってくれているダガロフさんに嘘をつくのは気が引けるが、私のために町へ連れ出してくれたふたりが責められるのは胸が痛いので大目に見てほしい。

< 125 / 176 >

この作品をシェア

pagetop