異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「彼女に剣を振るったのはなぜだ」
「敵兵の手当をしようとしたからだ。シェイド、お前の治療師への教育はどうなってる」
一国の王子にため口で話すところを見ると、ふたりは親しい間柄なのだろうか。しかしながら今は険悪な空気がシェイドとエドモンド軍事司令官の間に漂っている。
無言の応酬をしているふたりのやりとりを聞いていたエヴィテオールの兵は忽然に声を発する。
「その方は暴力を受けていた俺たちを庇ってくれたんだ」
私の代わりに弁解してくれたのはエヴィテオール軍の中ではいちばん軽症な兵だった。彼の頬にも痣があり、後ろ手に縛られて抵抗できないのをいいことに殴られたのだろう。
これでは賊軍と同じではないかと悔しくて奥歯を噛みしめたとき、シェイドはエドモンド軍事司令官の剣をサーベルで押しのけて腰の鞘に戻す。そのまま流れるような仕草で体を反転させて私を庇った兵の前に片膝をつき、頭を下げた。
「説明、感謝する。それから惨い仕打ちをしてすまなかった」
「なぜ……あなたの命を狙っていた私に頭を下げるのですか」
「王位争いで二分したとはいえ、あなたもエヴィテオールの民だ。戦意がないのなら、俺は王になる者としてお前たちのことも守る」
曇りのないひと言に敵兵は動揺を隠し切れない様子だった。目を白黒させながら、深々と頭を下げていく。
「失礼ながら、王宮ではあなたが王の器に足るか判断がつかなかった。しきたりにのっとって第一王子が王を継ぐべきだと信じて疑わなかったのです。しかし、あなたは綺麗事を並べるだけでなく現実を加味して発言している。感服いたしました」
エヴィテオール兵の言うとおり、シェイドは綺麗事だけではどうにもならない現実を見据えている。敵兵を救う際に“敵意がないのなら”と言ったことが証拠だ。これは裏を返せば、敵意があれば己の信念のために斬るということ。
私はやっぱりどんな理由があったとしても、命を奪う以外の方法でわかり合えると信じている。そういう点ではシェイドと考えの相違がある。
でも、目的のために殺す覚悟はあっても可能な限り無駄な殺生は望まないというシェイドの正義は、戦場を駆けてきたからこそ生まれたものだと理解できた。
「シェイド王子、私たちを討ち罰してください。エヴィテオールにとって必要なお方を手にかけようとしたのですから」
それがエヴィテオール兵の総意だとばかりに、重苦しい表情で皆が頷く。自身がしたことへの罪悪感からか、どこか死に急いでいるように見えた。
私は止めさせてとシェイドに視線で訴えかける。それに気づいた彼は小さく息を吐いて、敵兵を見渡した。
「敵兵の手当をしようとしたからだ。シェイド、お前の治療師への教育はどうなってる」
一国の王子にため口で話すところを見ると、ふたりは親しい間柄なのだろうか。しかしながら今は険悪な空気がシェイドとエドモンド軍事司令官の間に漂っている。
無言の応酬をしているふたりのやりとりを聞いていたエヴィテオールの兵は忽然に声を発する。
「その方は暴力を受けていた俺たちを庇ってくれたんだ」
私の代わりに弁解してくれたのはエヴィテオール軍の中ではいちばん軽症な兵だった。彼の頬にも痣があり、後ろ手に縛られて抵抗できないのをいいことに殴られたのだろう。
これでは賊軍と同じではないかと悔しくて奥歯を噛みしめたとき、シェイドはエドモンド軍事司令官の剣をサーベルで押しのけて腰の鞘に戻す。そのまま流れるような仕草で体を反転させて私を庇った兵の前に片膝をつき、頭を下げた。
「説明、感謝する。それから惨い仕打ちをしてすまなかった」
「なぜ……あなたの命を狙っていた私に頭を下げるのですか」
「王位争いで二分したとはいえ、あなたもエヴィテオールの民だ。戦意がないのなら、俺は王になる者としてお前たちのことも守る」
曇りのないひと言に敵兵は動揺を隠し切れない様子だった。目を白黒させながら、深々と頭を下げていく。
「失礼ながら、王宮ではあなたが王の器に足るか判断がつかなかった。しきたりにのっとって第一王子が王を継ぐべきだと信じて疑わなかったのです。しかし、あなたは綺麗事を並べるだけでなく現実を加味して発言している。感服いたしました」
エヴィテオール兵の言うとおり、シェイドは綺麗事だけではどうにもならない現実を見据えている。敵兵を救う際に“敵意がないのなら”と言ったことが証拠だ。これは裏を返せば、敵意があれば己の信念のために斬るということ。
私はやっぱりどんな理由があったとしても、命を奪う以外の方法でわかり合えると信じている。そういう点ではシェイドと考えの相違がある。
でも、目的のために殺す覚悟はあっても可能な限り無駄な殺生は望まないというシェイドの正義は、戦場を駆けてきたからこそ生まれたものだと理解できた。
「シェイド王子、私たちを討ち罰してください。エヴィテオールにとって必要なお方を手にかけようとしたのですから」
それがエヴィテオール兵の総意だとばかりに、重苦しい表情で皆が頷く。自身がしたことへの罪悪感からか、どこか死に急いでいるように見えた。
私は止めさせてとシェイドに視線で訴えかける。それに気づいた彼は小さく息を吐いて、敵兵を見渡した。