異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「前に死んだからって償うことはできない、楽になりたいだけだ。償うというのは生きて責任を取ることだと言った人がいた」

 それって……。

 脳裏に呼び起こされるのは『死んだからって償うことはできません。ダガロフさんは楽になりたいだけです。償うというのは生きて責任を取ることを言うんですよ』という私がダガロフさんに放った言葉だ。

 一言一句違えずに覚えていた彼に驚いていると、シェイドは意味深に見つめてきた。熱烈な眼差しに胸が高鳴るのを感じ、ゴクリと唾を飲み込む。

 シェイドはフッと笑って視線を兵に戻した。

「俺も同感だ。もし罰してほしいというのなら、その命を祖国のために使え」

「シェイド王子……私たちは共に戦ってもいいのでしょうか」 

 兵らの瞳に映り込む惑いを一掃するようにシェイドは間を空けずに言葉を重ねる。

「もし、お前たちが俺に義があると思うのなら共に来い」

 強い意志の宿るひと言が兵たちに浴びせられる。凛然な佇まいもその瞳の聡明さも纏う気高さもその場にいた人間を圧倒する。これこそ王の器だと納得させられるものがあった。

 エヴィテオールの兵は続々と頭を下げ、涙している者までいる。和やかな空気が流れる中、背後で舌打ちが聞こえた。

「いつから、そんな甘ちゃんになったんだよ」

 腕組をしたエドモンド軍事司令官が呆れ顔でシェイドを見下ろした。普通の人間なら竦みあがってしまいそうな眼光の鋭い彼の視線を受けても、シェイドは平然と言い返す。 

「体裁のいい言葉も真実だと教えてくれた人がいたから、俺も信じてみようと思ったんだ」 

「それがそこの女か。ったく、腹黒さが薄まって逆に気色悪いぞ」

 ちらりとエドモンド軍事司令官に横目に見られ、緊張を強いられる。居心地の悪さから気を紛らすように手当に集中した。

 しかし、ふたりはお構いなしに私の背後で談義を始めてしまう。

「エドモンド、彼女を怖がらせないでくれないか。先の剣を向けた件も俺は心底腹が立ってるんだが」

「あ? 対峙した感じ、この女はそんな権力者を前にしても動じないように見えたぞ。過保護がすぎるんだよ、うつけ王子が」

 エドモンド軍事司令官はシルヴィ治療師長の上をいく口の悪さだ。もはや毒舌を通り越して罵倒の嵐である。

 そして彼を相手にしているシェイドも冷笑を顔に張り付けて、容赦ない舌鋒をふるう。

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