異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「私は軍事司令官の言う通り、戦の前線に出たことはありません。ですから、治療師として人の命を救うために在る者として言わせてもらいます。今の私にはエヴィテオールの兵とあなた方に違いがあるとは思えない」

 そのひと言で場が騒然とする。「なんと無礼な女だ」「我らを愚弄するなど罰するべきだ」と連合軍の兵から声が上がった。

 私はそれだけ言ってエドモンド軍事司令官に背を向ける。出血が多いエヴィテオール兵のそばにしゃがみ込んで薬箱を開く。

 清潔な布を取り出して腹部にある裂傷の止血をしていると、私に手当てされている兵が青白い顔で尋ねてくる。

「どうして……助けてくれる……んですか」

「失われていい命はないと思っているからです」

 兵たちの言葉を借りるのならば、これが私の正義だ。

 断言して敵兵を助ける私にミグナフタ兵や月光十字軍の皆までもが裏切り者を見るような視線を送ってくる。

「おい、その手止めねーなら反逆ととるぞ」 

 冷淡な叱責が背中にかかる。それから間をおかずにカチャンという甲高い音が鳴り、なにかから引き抜かれるのがわかる。

 ――剣だ。

 背筋が凍る。汗が顎を伝って地面にうっすらと染みを作り、止血する手が小刻みに震える。それに気づいた瀕死の兵が力なく唇を動かす。

「もう、十分……です。俺はどのみち、助から……い」

「大丈夫、血は止まってきてる。だから諦めないで」

「ですが、あなたまで……殺されて、し……う」

「私は咎められてもいい。今、この判断を悔いることはないから」

 私の返答を聞いていたエドモンド軍事司令官は「ならばここで切り捨てるまでだ」と言って剣が風を切る音が耳に届く。衝撃に耐えるように目を強く瞑ると、金属がぶつかり合う音が響いた。

 薄目を開けて恐々と振り返る私の視界に飛び込んできたのは、振り下ろされたエドモンド軍事司令官の剣を自身のサーベルで受け止めるシェイドの姿。私を守るように立ち塞がる彼を見た瞬間、目にじわりと涙が滲んだ。

 シェイドは気遣いを含んだ視線を私に向け、すぐにエドモンド軍事司令官を真っ向から睨み据える。

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