異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「「シルヴィ治療師長はどうしてここへ!?」」

 声を揃えて尋ねれば、突然の出来事に目玉がこぼれ落ちそうになっているシルヴィ治療師長が叫ぶ。

「どああっ、いきなり抱き着いてくんな。今晩エヴィテオールの王宮で復興祭が開かれんだろ、ミグナフタの要人も招かれてんだよ」

「シルヴィ治療師長は功労者ですもんね」

 納得したふうに頷くマルクにシルヴィ治療師長は照れているのか、そっぽを向きながらも私たちの背に手を回した。 

「シルヴィ治療師長、エヴィテオールの王宮治療師になった私と再会するって約束、無事に果たせてよかったです」

 私はミグナフタを出る前にシルヴィ治療師長が言ってくれた『死ぬなよ。今度はエヴィテオールの王宮治療師になったお前と再会することを信じてるからな』という言葉を思い出していた。

 そしてシルヴィ治療師長も忘れないでいてくれたのだろう。何度も見た気だるげな表情とは打って変わって、悩みが晴れてすっきりしたような笑みを浮かべている。

「まったくだ、お前たちを送り出してから俺も含めて治療館の治療師たちも気が気じゃなかったんだぞ」

 そのときの様子を思い出しているのか、シルヴィ治療師長は苦笑いしていた。

 私たちは再会を喜んでつい話し込んでしまい、置時計の時間を見てハッとする。毎日十一時頃に私はとある患者のリハビリを行っているのだ。

 ふたりにひと声かけてその場を後にした私は外にある渡り廊下を使って別館に移動する。
そして一階廊下の一番奥にある、厳重な監視がついた部屋の前にやってきた。

 見張りの兵に中へ通してもらうと、暇を持て余した様子でベットに寝そべるアージェの姿がある。

 三ヶ月前、王宮奪還の際の戦闘でシェイドのサーベルはアージェの肩の神経を傷つけてしまったため、腕の挙上が困難になっていた。でも最近になってリハビリの効果が出たのか、その動きはスムーズになっている。

「少し待たせちゃってごめんなさい。アージェ、腕の調子はどう?」

 声をかければ彼は好意的な笑みを浮かべて「待ってたよ」と勢いよく起き上がる。それも手を使わず、足を振り子のようにして。さすがは隠密、動きがまるで忍者だ。

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