異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「俺、この部屋から一歩も出られないじゃん? だから若菜さんしか話し相手いないし、正直言って退屈なんだよね」

 彼には捕虜という自覚がない。それに話をしていて思ったのだが、心からニドルフ王子に仕えているというわけではないらしい。徹底的な証拠になるのかは怪しいが、「そっちに寝返るから自由にしてよ」と言ってきたこともある。どうも腕がいい隠密だからとニドルフ王子に金で雇われただけらしい。

「まあ、気が滅入るのもわかるんだけどね」

 ベットに腰を下ろして、彼の腕の筋肉を解すようにマッサージしてから、腕を上げたりとリハビリを始める。

「じゃあさ、若菜さんからシェイド王子にお願いしといてよ」

「あなたが怪我を直して、しっかり罪を償ったらね」

 現金な人だなと思いつつ、存外人懐っこいので憎めない。リハビリをしながら、今度は暇つぶしになるような物を差し入れてあげようなんて考えている自分がいた。


 アージェの部屋を出て治療室のある館へ戻るために渡り廊下を歩いていると、ぽんっと肩に手が乗った。驚いて「ひゃっ」と変な声を出しながら振り向けば、そこには目を瞬かせるシェイドが立っている。

「す、すまない。怖がらせたか?」

 シェイドは申し訳なさそうに後頭部に手を当てた。

「あ、ううん。気にしないで」

 笑みを繕いながらも、私は変な声を出したことへの羞恥心にじわじわと顔が熱くなる。鏡がないので自分では確認できないが、赤面しているに違いない。

 それになんとなくだが、シェイドは不自然に唇を引き結んで笑いを堪えているように見える。私が無言で凝視して追及すると、彼は口元を手で覆い背を向けた。

「あの、笑うならちゃんと笑ってほしいんだけど。気遣われるほうが惨めだから」

 開き直った私からお許しが出たのをいいことに、シェイドは「くっくっくっ」と肩を震わせながら笑い、私に向き直る。

「その、なんだ……可愛いと思ってな」

「面白いじゃなくて?」

「ああ、そういう気の抜けた若菜も魅力的だと俺は思う」

「なっ……あなたは相変わらず言葉が直球ね」

 照れて赤くなっているだろう私の顔を楽しげにのぞき込むシェイドと肩を並べて歩いていたら、訓練場の前を通りかかった。

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