異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「最後に思いを伝える人が、その目に映す人が、私じゃなくてお父さんやお母さん、大好きなお兄ちゃんだったらよかったのにね……」

 私ではなく、湊くんは家族に看取られたかったはず。なのに最後の言葉が私への感謝だなんて、あまりにも切ない。

「明日、一緒にお昼ご飯を食べようねって言ったじゃない」

 病状からしても逝くにはまだ早かったはずの湊くんは、神様のいたずらとしか思えない急変だった。

 終末期の患者はいつなにが起こってもおかしくはないし、ある日突然眠るように亡くなっていることもある。だから、まったく予想をしていない出来事ではなかった。でも、わかっていても慣れるものではないのだ。

「少しでも長く、生きてほしかった。せめて、その寂しさだけでも取り除いてあげたかった……っ」

 私は合掌させた彼の手を包み込むように握ると、額を近づけて目を閉じた。

 ほんの数十分前まで温かかった。確かに私の手を握り返してくれていた。なのに、今はピクリとも動かない。

「私はっ、湊くんのためになにかできていた? 君の力に、なれていたのかな?」

 答えなんて返ってこないけれど、問わずにはいられない。私は看護師として、いや――ひとりの人間として、湊くんの心に寄り添えていたのだろうか。

 冷静でいなければと思うのに目頭が熱くなり、堪えきれない涙が湊くんの手に落ちた。いよいよ嗚咽がこみ上げてきたとき、瞼越しに強い光を関して目を開ける。

「なに、これ……」

 湊くんの身体が窓の向こうにある月よりも強く発光していた。波が寄せては返すようにゆらゆらと明滅する光は段々と部屋全体に広がって、私の身体ごと包み込んだのだった。
 
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