異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「団長が羨ましいですよ~。こんな美人に甲斐甲斐しく看病されて、一夜の過ちはなかっ――ごふっ」

 最低なことを言いかけていたアスナさんの口を、ダガロフさんの大きな手が突きをする勢いで塞いだ。当然、アスナさんの体は椅子ごと後ろにひっくり返る。

「若菜さんの前で卑しい言葉を発するな。清らかなこの方を汚すことは許さん」

 殺気を放ってアスナさんを睨みつけるダガロフさんの発言にも気になる単語がいくつかあったのだが、考えてもきりがないのでやめにする。

「ひどいじゃないですか、団長のために夜のお供まで用意したのに」

 床の上に座ったまま、本を持ち上げるアスナさん。よく見ると本にしては薄く、彼の手でほぼ隠れているけれど表紙は人の絵画が描かれているようだ。

「それはなんですか?」

 不思議に思って尋ねると、アスナさんはニヤッと笑う。嫌な予感がして、やっぱり質問を取り消そうとしたのだが……。

「これはね、ムラムラっとしたいときに眺める絵画集。そんでもってこっちが、夜のお作法を赤裸々に説明している情事の本だよ」

 軽い調子で二冊の本を紹介してきたけど、それってつまりコンビニなら隅の棚に置かれているような成人向けの雑誌ということだろうか。

 なるほど、異世界にもこういう娯楽があるのね。こういうところは元いた世界となんら変わりがないんだな。

「あまり興奮状態が続きますと、交感神経が優位になって涙の分泌が減ります。目によくありませんから、ほどほどにお願いしますね」

 私ももう三十だ。このような雑誌で恥ずかしがる年齢でもないし、病院でも成人雑誌を持ち込んでいる患者に注意したことがある。あのときは子供連れの面会があったので、ベットテーブルなどの目に見える場所に置かないようにお願いをした気がする。

 思い出を振り返っていると、病院で働いていた頃が遠い日のように感じた。

「俺の求めてた反応の斜め上を行き過ぎて一瞬、思考が停止したんだけど。なんなの、この聖母様みたいな存在。なんでか、自分がどうしようもないやつに思えてきたよ」

 ぎょっとした顔で私の顔を見るアスナさんに、ローズさんはふんっと鼻を鳴らした。

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