異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「左側の視界がない分、空間を無視しやすいので意識して食事してください。ちゃんと残さないでしっかり食べること」

 私はあえて食べやすいように、食器を健側に置くなどの配慮はしなかった。

 ダガロフさんはずっとじゃないとはいえ、右目に頼る生活を強いられる。つまり、今から左目がなくても難なく日常生活動作がとれるように訓練する必要があるからだ。

 なんでもやってあげることが優しさではない。厳しいと言われようとも、その人が自分らしく生きられる力をつけられること。それを促せる関わりが本当の優しさだと信じて、私は数日に渡り彼の看病を続けた。


 砦に滞在すること一週間。戦で負傷した兵たちも回復しており、出立を明日に控えていた。ダガロフさんも目の痛みは治まったのだが、角膜と視力の回復にはまだかかりそうだ。

 私は昼食を手に部屋に入ると、すでに寝台の上に座っているダガロフさんに声をかける。

「ただいま戻りました」

「ああ、若菜さん。お帰りなさい」

 ダガロフさんはいつからか、私に対して敬語で話すようになった。理由を聞いても「時が来たらいいます」の一点張り。知らぬ間に心の距離が遠くなってしまったのかと思いきや、前よりも口数が増えて笑うようになっているのでそうでもないのだ。

 彼の変化に若干の戸惑いはあるものの、元気になってくれるならこの際細かいことは気にしないでおこうと問いただすことはやめたのである。

「今日は賑やかですね」

 寝台の周りには私に向かって本を持った手を軽く上げるアスナさんに、素知らぬ顔で優雅にティーカップに口をつけるローズさんがいる。

 敵対していたとしても、師である団長のことが心配だったのだろう。目的のために切り捨ててしまった仲間とダガロフさんが一緒にいる姿を見ると感慨深い気持ちになった。

 微笑ましく思いながら皆を見つめていると、ダガロフさんが頭を掻いて申し訳なさそうな顔をする。

「すみません、こいつらが見舞いに来るって言って押しかけてきてしまって」

「いいえ、それよりもダガロフさん。今日もしっかり栄養をつけてくださいね」

 昼ご飯が乗ったトレイをダガロフさんの膝の上に乗せると、なにやら視線を感じて顔を上げた。

「あの?」

 私を見ていたのはアスナさんだった。ニヤニヤしながらダガロフさんの肩に腕を回して寄りかかる。

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