異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「この右目と一緒に、誤った道を突き進んでいた俺は死にました。失ったものも、得たものも大きい怪我だ。今はこの瞳が世界を映さなくなって、よかったと思っています」

 静かに私とシェイドの前に跪き、胸に手を当てる。一連の動きに無駄はなく、その美しい所作に見惚れた。

「ぼやけた右目の視界に再びものを映すことがあるとしたら、シェイド様が王となり国中が笑顔に包まれるときだ」

「ならばダガロフ。俺が王になり、その景色をお前に見せることができたそのときは、ちゃんと自分を許せ。それまでは右目とともに罪と向き合うといい」

 シェイドはそう言って、下衣のポケットから黒の眼帯を取り出す。表面には金糸で月光十字軍の紋章が刺繍されおり、素材は革製なのか光沢がある。

 その眼帯をシェイドが差し出すと、ダガロフさんは目を潤ませて受け取った。それから眼帯をつけて、再び顔を上げる。

「このダガロフ・アルバート、これよりシェイド王子と若菜さんに心からの忠誠を誓います」

 昼下がりの部屋に、彼の強い決意が込められた高らかな声が響き渡った。



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