異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
五話 ともに背負う運命

 要塞からミグナフタの王城に帰還して一週間が経った。ダガロフさんの処遇は月光十字軍やミグナフタ国の兵たちにシェイドから事情を説明し、団長の称号の剥奪と二十四時間監視付きという条件で行動を共にすることを許された。

 とは言ってもダガロフさんは月光十字軍の皆に慕われており、いまだに団長と呼ばれているところを見ると彼の人望の厚さを感じた。

 私はというとシルヴィ治療師長とマルクと一緒に、ミグナフタ国の健康と衛生を管理する治療師長の上官――バルトン政務官の元へ向かっていた。

「王宮治療師の緊急派遣依頼なんて、珍しいですよね」

 城の薔薇園沿いの廊下を歩いていると、私の右隣にいるマルクが声をかけてくる。

「町の施療院に王宮治療師が派遣されるのは今までになかったわけじゃないが、明日にも来てほしいだなんて急だよな」

 私の左隣にいるシルヴィ治療師長も訝しげに眉を寄せていた。

 今までなら城の治療館に施療院で診きれない患者を運んで治療するのが基本だった。

 しかし、今回はバルトン政務官の命令で私たち治療師は町の施療院に派遣される。もちろん王宮治療師全員を派遣するわけにはいかないので、バルトン政務官の直々の指名により、ここにいる私たちが施療院へ赴くことになった。今はその詳しい説明を受けに行くところなのだ。

「どんな患者がいるのか、バルトン政務官にきっちり聞かなくちゃね」

 三人で頷き合っていると、薔薇園にアシュリー姫とシェイドの姿を見つける。

 思わず「あっ」と声を出して足を止めてしまった私を、数歩先でマルクとシルヴィ治療師長が振り返った。

「若菜さん、どうしたんですか?」
マルクが首を傾げながらシルヴィ治療師長と目の前まで歩いてきたので、私は曖昧に笑った。

「ごめんなさい、なにも……」

「若菜?」

 言いかけた言葉は、今いちばん顔を合わせたくない人によって遮られる。深く息を吐いて平常心を心がけながら、私は彼を振り向いた。

「シェイド……様」

 人目があったので敬称で呼ぶ。するとシェイドは変わらず爽やかな微笑を浮かべながらアシュリー姫の手を取ってエスコートしながらそばにやってくる。そんなふたりの姿を目にした途端、胸が焼けるように痛んだ。

 男性が女性に付き添うのは、この世界では行儀作法みたいなものだ。特別な意味などないと自分に言い聞かせる。

 そこでハッとした。どうして私は、必死にふたりの仲を否定しようとしているのかと。年齢も身分も釣り合うシェイドとアシュリー姫の仲を応援すると決めたのは、他でもない私だというのに。

 複雑な気持ちで近づいてくるお似合いのふたりを見つめていると、ついに目の前にシェイドが立つ。

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