異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「仕事仲間といる若菜は勝気さに磨きがかかるな」

「そうでしょうか、自分ではいつも通りのつもりなんですが」

「なら俺はまた、あなたの知らない一面を知ったということか」

 破顔するシェイドに、私の胸には疑問がわく。

 なぜ、そんなにも嬉しそうな顔をするのだろう。想いを寄せてくれる彼に、私はなにひとつ返せていないというのに。

 じっと彼を見つめていると、「ん?」と首を傾げられた。私は慌てて頭を振り、気を取り直すように歩き出す。

「バルトン政務官を待たせたら失礼ですし、行きましょう」

 すたすたと歩きだす私の隣に皆も並び、「そうだな」とそれぞれ返事をくれる。隣を歩くシェイドに気を取られながらも、私はバルトン政務官のいる執務室に着くまで前を向いていた。


「よく来てくれた……おや?」

 私たちを執務室に迎え入れたのは白髪交じりの茶色い髪を右耳の横でひとつにまとめている四十代くらいの男性だ。

 表情こそにこやかだが部屋に足を踏み入れて数分、バルトン政務官は私たちの後ろにいるシェイドの姿を視界に捉えると眉間にしわを寄せた。

「シェイド王子までいらしゃったとは驚きました」

「うちの王宮治療師が世話になるとお聞きしたので、施療院からの依頼の詳細を把握しておこうと思いまして。構いませんか、バルトン政務官」

 シェイドは薄っぺらい笑みを顔に張りつけたまま、バルトン政務官と対峙していた。その異様さにシルヴィ治療師長も気づいたのか、険しい面持ちをしていた。

 一分ごとに空気が重みを増す中、椅子に座っていたバルトン政務官は前のめりになって執務机に両肘をつくと軽薄な笑みを口元にたたえる。

「ええ、王子にも後で話そうと思っていたので、ご足労いただき感謝しています」

 そのひと言に引っ掛かりを覚える。話を通すのなら、まずは王子からだろう。私たちのあとに話すだなんて順序が逆な気がする。

「では、説明願おう」

 壁に寄りかかるように立ったシェイド。私はシルヴィ治療師長とマルクとともに、執務机の前で横に整列した。

 バルトン政務官は品定めするように私たちの顔を準々に眺めると、静かに口を開く。

< 89 / 176 >

この作品をシェア

pagetop