むかつく後輩に脅されています。
「な……なによ」

 彼は私の髪をかきあげ、にこにこする。

「先輩、おでこ出したほうが可愛い」
「年下のくせに、可愛いとか言うんじゃないわよ」
「可愛いのに年齢は関係ないですよ」

 そのとき、ポーン、と音が鳴り、エレベーターのドアが開いた。私は慌てて、相楽を押しのける。エレベーターに乗り込もうとした人物が、私たちを見て足を止めた。
 ──あ。私はどくん、と心臓を鳴らす。
 彼は緩く微笑み、

「久しぶり。吉永さん」
「え、ええ」

 私は彼から目をそらした。相楽が何か言いたげにこちらを見ている。なんなのよ。こっち見るんじゃないわよ。私は逃げるようにしてエレベーターを降りた。相楽が後ろからついてくる。

「先輩、あの人誰?」
「べつに……ただの知り合い」

 それ以上詮索されないように、私は相楽に書類を渡す。

「これ、今日の外回りリスト。チェックしておいて」
「あ、はい」

 相楽がリストをめくっている間に、私は自分の席に向かう。パソコンの前に座って、息を整えた。仕事をしなくちゃ。余計なことは考えない。ふとパソコンを開くと、メールが届いている。メールを開いて見て、私はハッとした。差出人は三井弘次。

 from:三井弘次
to:吉永ゆり
 _____________________
 本文
 少々ご相談したいことがあります。都合のいい時間を教えてください。

「……」

 私はカタカタとキーを打ち、送信ボタンを押した。

 時計の針が十二時をさして、フロアから人が出払う。私は席を立ち、相楽に告げた。

「相楽、お昼食べておいて。一時から取引先に行くから」
「先輩は?」
「私は、ちょっと用事があるの」

 相楽は不可解そうな目でこちらを見る。私は彼を振り返らずに、フロアから出た。
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