むかつく後輩に脅されています。
チリンチリン、とドアベルが鳴り響く。中に入ると、窓際の席にいた男性が手を挙げた。近寄っていくと、三井は笑顔を浮かべる。彼は吸っていたタバコを灰皿に押し付け、

「よかった。着信拒否されてるかと思った」
「そんなこと、しません。仕事のメールが入るかもしれないから」

 私は三井の前に座る。注文をとりにきたウエイトレスに告げる。

「すぐ帰りますから」
「食べないの? お腹減るよ」
「大丈夫です」

 三井は肩をすくめ、

「さっきの彼、恋人? エレベーターの」
「……後輩です」
「仲よさそうだったね」
「あなたには関係ありません」
「彼は知ってるの? 君が……」

 私はぎゅっと拳を握りしめた。

「知ってます。BL漫画を描いてること」
「そうなんだ。へえ」

 それでも彼は平気で君に近づくんだ。奇特な男だね──。三井の顔にはそう書かれていた。濡れた服を着ている時のような不快さが、身体にまとわりつく。

「話がそれだけなら帰ります。これからは、私用で社内メール使わないでください」

 私は立ち上がる。

「悪かったよ」

 三井の声に、足を止めた。

「なんていうか、君があんなの描いてるなんて知らなかったからさ。ちょっとびっくりしただけなんだ」
「……だから?」
「あの話、もう一度考えてみてよ。時間をかければ理解できると思うし」

 私は、三井に笑顔を向けた。

「あなたに理解されなくても大丈夫です」

 振り返らず、そのまま喫茶店を出た。

 会社に戻ると、相楽がひょこひょここちらに寄ってきた。

「先輩、お帰りなさい」

 呑気な顔を見ていると、苛立ちが募る。

「ちょっといい」
「え、うお」

 私は相楽を引っ張るようにして、会議室へ連れていく。会議室に入ると、相楽は不可解そうにこちらをみた。

「どうしたんすか」
「画像、消して」
「はい?」
「はやく。スマホ出しなさいよ」

 私は相楽の胸ポケットに手を突っ込む。

「ちょっ」
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