幻獣サーカスの調教師
「わー!真っ赤だわ!ねぇねぇお母様見て!真っ赤真っ赤!」

ノエンに連れられ会場にやって来たルルとラッドは、目の前ではしゃぐ少女に困惑した。

「嬉しいのリディア?」

「うん!」

「そう。……団長さん、さっそく」

母親らしき女性は扇子を口元に当て、優雅に微笑んでから団長を見る。

視線の意味に気付いた団長を頭を下げると、ルルを振り返る。

「今までラッドの世話をしていたのはお前だからな。お前の手で渡して差し上げろ」

「……」

団長に言われ、ルルは迷うようにラッドの背を撫でた。

あの少女はラッドを大切にしてくれるだろうか?おもちゃのように扱ったりしないだろうか?

「ね~お父様~、早く~」

父親のズボンをくいくいと引っ張りながら、少女は唇を尖らす。

「分かってる分かってる。……おい、早くしろ!」

「申し訳ありません。……ルル!」

平謝りしてから、団長はルルに怒鳴る。

「!……さ、行くわよ。ラッド」

ルルが前に進み出てラッドを促す。

だが―。

『……ガルルル』

ラッドは牙を剥き出しにして唸っていた。

今まで、低い声で警戒することはあっても、ここまであからさまな警戒は、ルルがラッドと初めて会った時以来だ。

いや、正確にはそれ以上の強い嫌悪を感じる。

怯えている訳ではない。もっと激しい、例えるなら憎悪や憎しみ、怒りといったものが近いだろう。

「ラ、ラッド……?」

知らず震えていた手を押さえ込むようにして、精一杯笑顔を浮かべる。

「大丈夫。大丈夫よ」

ラッドはルルの言葉に答えず、ただひたすら一点を見つめ唸り続ける。

視線の先にいるのは、ラッドを買うといった男。

「何だ?何故俺を見ている?調教は済んだのだろう?」

「ええ。……ルル。大人しくさせろ」

「……」

団長に声をかけられても、ルルは足が震えて動けない。

何故か分からない。だが、とても嫌な予感がする。

「お父様~?遅いよ!まだ~?」

「ああ、待たせてすまないね。……仕方ない」

娘を優しく撫でると、男はラッドへと一歩踏み出す。

すると、ラッドを先程よりも強い警戒心を見せた。

(……駄目……)

「ふんっ。たかが獣だ。大人しくこちらに来い!」

男がもう一歩踏み出したその瞬間。

「駄目ぇぇぇぇぇ!!」

ルルが叫ぶのと、ラッドが走り出すのはほぼ同士だった。
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