腹黒上司が実は激甘だった件について。
「俺は日菜子を振った男たちにお礼を言いたいね。俺と出会うための御膳立てをしてくれたわけだろう。特に最後の浮気男な。あいつがいなかったら俺は日菜子を好きになっていなかったかもしれない。あの時の涙が、俺の心を動かしたんだからな」

そういえば、私の失恋の涙を偶然見られていたんだった。
それがきっかけで私を気にするようになったと。

「俺はどんな日菜子でも受け入れるよ。それは日菜子も一緒だ。俺の方ががっかりさせるかもしれないだろ?それでも受け入れてくれるか?」
「がっかりだなんて…、全然ないです」
「一緒に暮らし始めてからの俺を褒めてほしいくらいだ。好きな女が目の前にいるのにおあずけをくらってるんだ。よく耐えた、俺」

坪内さんはうんうんと、一人頷いた。
私は申し訳なくなりながらも照れてしまって、頬に熱を帯びるのがわかる。

「だから、何も心配しなくていい。俺についてこいよ」

握っていた私の手を放したかと思うと、坪内さんは両手を広げた。
胸に飛び込んでこいと言わんばかりの、自信に満ち溢れた顔。
私は恐る恐る近付く。
坪内さんは私が伸ばした手をつかむと、一気に引寄せて抱きしめた。

「日菜子、好きだよ」

そのまま押し倒されて抱かれるのかと思ったのに、私のお腹がぐううっと鳴り響いた。
察しろ、私のお腹。

「食い気の秋山だったな」

坪内さんがお腹を抱えて笑う。
< 62 / 63 >

この作品をシェア

pagetop