古都奈良の和カフェあじさい堂花暦
私たちは並んで日傘をさして歩いた。

沙代里ちゃんのそれは藍色に白で朝顔の絵が描いてある涼し気なもの。
私のは母に借りた白のレースだった。

「それにしても悠花ちゃんてほんま親孝行なんやなあ」

沙代里ちゃんが日傘をくるくる回しながら言った。

「は!? どこが?」

沙代里ちゃんの言葉に私は目を丸くした。
むしろ、ただ今、絶賛人生最大の親不孝中だと思うんだけど。

「だってなんやかんや言うてお義母さんの言うこと聞いてこうして出かけてきとるやろ? うちやったら実家の親があんなん言うたらもう口きいたらへんわ」

おっとりとした口調で痛いところをつかれて私は黙り込んだ。

沙代里ちゃんの言う通り。

私は結局、母の言うことには逆らえない。

進学先や就職先を勝手に決めたり、ちょっとした口答えは出来ても昨日みたいにああやって面と向かって詰め寄られると、正面切って言い争うことが出来ないのだ。

「親孝行なんかじゃないよ」

私はぽつりと言った。

「母のことを思って言うこと聞いてるんじゃないの。ただ、争うのがめんどくさいっていうか……」

ううん。それともちょっと違う。

私は昔から誰かから強く何かを言われたり、争いになりそうな雰囲気が苦手で、そうなってくるともう何でもいいからその場をおさめて立ち去りたいということしか頭になくなってしまうのだ。

そしてそれは母だけではなく、他の人に対してもそうだった。

< 16 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop