古都奈良の和カフェあじさい堂花暦
 お客様を案内して、水とおしぼりを運んでメニューをお渡ししたりしていると、接客中は滅多にフロアに出て来ない奏輔さんが黒いトレイを持って出て来た。

 佐保ちゃんの席に近づくと、

「お待たせしました」
と、テーブルの上に器を置く。

「何も、頼んでないけど……」
 佐保ちゃんが言う。

「サービスや。景気づけに食ってけ。そんで食ったらさっさと帰れ」
 特に抑えてもいない声に、お客さんがびっくりしたように振り返る。

私はハラハラしたが、奏輔さんは気にした風もなく
「白玉あんみつ。好きやろ、佐保」
 不服げに奏輔さんを見あげた佐保ちゃんは、それでも黙ってスプーンをとり上げた。

 白玉を小豆を一緒にすくい、ぱくんと口に入れる。
「おいしい……」
「当たり前や。へこんだ時はややこしい事ごしゃごしゃ言わんと甘いもの食べといたらええねん」

 言うだけ言ってさっさと厨房に戻っていく。佐保ちゃんは黙ってぜんざいに添えて出されたアイスグリーンティを飲んでいる。

(なんだ。一応、気にしてるんじゃない)
 ほっとする私の耳に、

「ちょっと……何あれ。ツンデレ?」
「俺サマ系? やだ、ちょっとカッコ良くなかった?」
 押し殺した囁き声が飛び込んできた。
 見ればメニューを見ていたお客さん二人が顔を寄せ合って盛り上がっている。
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