硝子の花片
これは、一時的にここに居るのを許可された感じかな。

「桜夜さん、私の部屋はこちらです。」

沖田さんに連れられて土方さんの部屋を出た。

しばらく廊下を歩くと角部屋の前に着いた。

「ここです。何もない部屋で本当に申し訳ないです」

そう言って沖田さんは申し訳なさそうに微笑み襖を開けた。

中は6畳くらいで、ものは刀と文机くらいしか見当たらない。殺風景な部屋だった。

「すみません、こんな部屋で…暇ですよね」

沖田さんはさっきからペコペコと頭を下げている。
申し訳なさそうに微笑みながら。

「いえ、こちらこそお世話になってばかりで…それに、ここだと落ち着いてお話出来そうですし。」

そう言って私が笑うと沖田さんは驚いたように目を見開いた。

「…私と話したいんですか?」

なぜそんなことを聞くのだろう。
私と瑞奈は剣道部で、凄く剣士に憧れている。
目の前に歴史上の天才剣士が居るというのに話したくないわけないではないか。

「はい!凄く話したいです!」

私が言うと、沖田さんは苦笑した。

「変な人ですね。…でも私も貴女と話してみたかったんですよ」

そう言って笑った沖田さんは桜の花のように儚く見えた。

そう、さっき見た桜の大木ではなく、私が通う高校の山桜みたいに風に吹かれたらすぐに散ってしまいそうな、そんな感じがした。
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