硝子の花片
私は沖田さんの手を握る。

「…屯所で待ってるんじゃなかったんですね。桜夜さん。…貴女はいつも私を助けに来る。」

沖田さんの顔が紅い三日月に照らされて儚げに映る。

「私は沖田さんを任されてますからね。平助くんに。」

沖田さんは苦笑いした。

突然その顔が歪む。

「っ桜夜さん!」

次の瞬間何も見えなくなった。



気付くと目の前には沖田さんの覗き込む顔が見えた。

「大丈夫ですか?」

「…私倒れたんですか…」

そりゃあ、狂ったように走ってきたし…仕方ないか。

私が起き上がろうとすると沖田さんに額を押され、元の態勢に戻された。

「もう少し、膝枕されてて下さい?そろそろ、面倒な事が終わると思うから。」

「えっ」

沖田さんに言われて初めて今の状況が把握出来た。

(天才剣士に膝枕されてるってどんな状況?これは天に召されろと言っているようなものでは!?)

私は自分の体温が急上昇していくのがわかった。

「あれ、熱があるんですか?…斎藤さんと土方さんに聞きましたよ、物凄い勢いで池田屋に走ってきて私を助けてくれたって…。無茶は禁物ですよー?」

「えっ、聞いたんですか土方さんに!」

私はついつい間抜けな声が出てしまった。
土方さんに聞いたということは口移しの件が知られているかもしれない。

(…まずい…)

私の体温は更に上昇する。蒸発してしまいそうな勢いだ。

「え?私が水分不足だってのを知らせてくれたんですよね?え、聞いちゃ駄目でしたか?」

沖田さんは目を丸くして首を傾げた。

よかった。例の件は知らないようだ。

「…どうやら私達の仕事は終わったようです。下に降りましょうか。」

沖田さんは私の肩を支えて起こしてくれたが、1番心配なのは沖田さんなのだ。

「沖田さん、私は大丈夫ですから無理しないで下さい!」

そういった途端に私の視界が暗くなった。



< 54 / 105 >

この作品をシェア

pagetop