硝子の花片
「ふっふはははっ」

私は吹き出してしまった。あまりにも幸せ過ぎた。
沖田さんもつられて笑う。

この屯所に、ここまで平和な幸せな笑い声が響いたのは、最後かもしれない。





そう、欠けるところのない望月のような日々がパキパキと壊れ始める音に私は気づかなかった。



















「…屯所を西本願寺に移転する?」

「ええ。その会議をしていたのですが…」

沖田さんは溜息をついた。その息が白く染まる。
季節はもう冬だった。

「山南さんと、土方さんの意見が割れてしまって…それはよくあるんですけどね、伊東さんが土方さんに賛成したんですよ。…これじゃあ山南さんの考えは少しも通りはしない…山南さん、大丈夫かなあ」

沖田さんは何かを案じて空を見上げる。
あの蒼い空は雲ひとつなくて、綺麗なのに、どこか寂しい感じがした。

「…山南さんは大丈夫。あの人はどんな事があっても新撰組にとって無くてはならない人だから。」

沖田さんの自分に言い聞かせるようにして呟いた言葉が、私の胸を締め付けた。

…今、山南さんは何を考えているのだろう。

寂しいのかな、悔しいのかな、怒ってるのかな。
山南さんは優しいから、きっと独りで背負っている。

だから、私達にもその荷を分けて欲しい。


「…春になったら、花見に行きましょうか。山南さんも一緒に…」

「そうですね、あの桜の大木のところで、山南さんと平助くんも連れて。」

「ふふっ、いいですね。それで山南さんが楽になってくれたら…」

沖田さんはまた空に目を移す。
その紅い目に優しい光が差して揺れていた。

ああ、春が待ち遠しい。
< 64 / 105 >

この作品をシェア

pagetop