硝子の花片
そう言っていた矢先の事だった。

「貴方は隊士の方でいらっしゃいますよね?」

「えっ」

「私、伊東甲子太郎と申します。…貴方、線が細く
て美しい顔立ちですね。」

「は…!?あ、ありがとうございます…?」


伊東さんに見つかってしまった。

思わず身構える。
それに構わず伊東さんは私の顔に手を伸ばす。


「伊東先生。此方の者は私の小姓をしている者です。決して怪しいものではありません。」

気づくと目の前に背中があった。
頭上から聞き慣れた中低音の透き通った声がする。

「ああ、そうなんですね。貴方も美しい顔をしていますね…貴方は確か副長助勤の方でしたか?」

「申し訳ありません。ご挨拶が遅れました。
私は新撰組1番組組長沖田総司と申します。」

沖田さんは怖気付く事無く、丁寧に対応する。
でも声音はいつもより…冷たい…?

「ああ、あの有名な天才剣士の沖田くんですか!
お会いできて光栄です!仲良くして下さいね♪
では、残念ですが私はこれにて」

伊東さんが機嫌よく鼻歌を歌いながら去った後、沖田さんの溜息が聞こえた。

「沖田さんありがとうございます!」

「ああ、いえ……なんだろう…なんか、嫌だったから…」

そう言って沖田さんは目をそらす。
長い睫毛が伏せられていた。

「え?どうしてですか?」

「だって……桜夜さんに、触れて欲しくなかった……。
あはは、子供みたいですよねー。
…ヤキモチ、でしょうか?」

沖田さんはほんのり頬を紅く染めて無邪気に笑う。


私の体温は急上昇する。湯気が出そうなくらい、熱い。
このまま気化してもいいくらいだった。
ああ、いっその事空気になってしまいたい。

「あっ、あれ??顔真っ赤…私、なにかしました?」

沖田さんは何食わぬ顔で首を傾げる。
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