硝子の花片
屯所は悲しい気持ちで包まれていた。



「…沖田さん…」

介錯を終えて部屋に戻ってきた沖田さんに声をかけるといつも通りの笑顔が返ってきた。

「…桜夜さん、辛いでしょう?自分が辛い時くらい、人の事気にしなくていいのに。」

私の事を思ってかそんな言葉をかけてくれる。

でも、その笑顔はぎこちなくて、目も焦点が合っていないように見えた。

私より辛いのは、沖田さんだ。



私は沖田さんの手を握った。

手が冷たい。痛いくらいに。小刻みに震えている。

私はその白い大きな手を両手で包むようにして握った。

(…私にはこれくらいしか、出来ない。でも、これ以上好きな人が苦しむのを何もしないで見ていられない…)

私は思う。

二度とこんな事が起きないようになればいいのに。と。



ふと視界が暗くなった。息がしにくい。
でもなんだか心地よい暖かさがある。

私は沖田さんに抱き締められる形になっていた。

普通なら体温が上昇してしまうところだが、今は違った。

「…桜夜さん…私…どうすればいいんだろう…。」

頭上から弱々しい声がする。

「…兄と慕ってきた人を…この手で…殺めてしまった…
私は…酷い人間だ…」

沖田さんの声が掠れている。きっと、思い詰めてたんだ。昨日から、ずっと。


「…我慢、しないで下さい…。辛い時は、泣いていいんですから。」

きっと、ずっと我慢してきたんだろう。何年も。

「…私…涙が出ないんだ…。山南さんを斬って…悲しいはずなのに…涙が…出てこない」

沖田さんの私を抱く力が強くなる。

(…今まで、頼る人が居なかったのかな。)

私は思った。

ずっと、ずっと、この肩に重い荷を背負って生きてきたのか。

そうやって、自分のことに無頓着になって、傷付いた心を誤魔化してたのか。

でも、もう無理だ。

傷付いた心がボロボロになって、割れて無くなっていく。



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