ソラ(仮)
「…奢る」



ポツリ、呟かれた言葉。



「いい、キャンセルするから」



そう言ってボタンを押そうとする有沙の手は、押し戻される。



「じゃあ、貸す」



「…でも」



「だから、1人で食う飯は不味いんだって」



ため息まで疲れる。



なんだか、どっちが悪いんだか分からない。



そう言われてしまっては、有沙も断れない。



押された手を素直に引っ込めると、また窓の外へと視線を戻した。



唯も、窓の外へと目を向ける。



何を見るわけでもない。



何か話すでもない。



ただただひたすらに、窓の外を見つめるだけ。



会話は、ない。



だけど、それは決して居心地の悪いものではない。



それどころか、心地の良い沈黙だ。

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