ソラ(仮)



カチャッという音を出しながら、高そうなジッポに火がつく。



リョウはそれを、口に咥えた煙草に火をつけながらシャツを羽織る。



手際よく、スーツを着ていくリョウを

ベッドに横になり、シーツに包まれたまま有沙は見ていた。



シュッと香水が降られると、辺りがリョウの香りに包まれる。



「行って来る」



リョウはそれだけ言うと、右手に煙草を持ち身体を屈め、有沙の額に軽いキスを落とす。



そんなリョウに、有沙は何も言わなかった。



リョウは優しく有沙の頭を撫で付け、スーツの上着を手に取ると部屋から出て行った。



パタンと音がして部屋のドアは閉まり

ガチャンと小さな音がして、玄関が閉まったのが分かった。



途端に、有沙の瞳からは涙が流れた。



ツー…、と流れた涙は

誰にも拭われることなく
誰にも知られることなく

ただ、シーツを濡らしていく。



暗闇の中、1人になった有沙に残されたのは、リョウの香水の香りだけだった。

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