白に染まる、一滴の青。

「私、すごく哀しそうなのに、幸せそうに見えるね。どれも、そんな顔をしてる」

ゆっくり、ゆっくり、楓の指先がキャンバスの中央辺りにある楓の頬まで伸びた。


「全部、僕から見えていた景色です。僕が見ていた先輩は、時々、そんな表情をしてました」

本多を瞳に映している時にだけ見せる、彼女の表情。

彼女自身も、この時自分の視線の先にいた人を分かっているに違いない。その証拠に、彼女は少しだけ複雑に笑った。


「慧くんの前で、私、もっと楽しそうに話してなかった?」

どうしてこんな表情してる私なの、と付け足した楓の言いたいことは慧にもよく分かった。

どうして絵にしたのが、慧と話す楽しそうな楓ではなく、窓の外を儚げに見つめる楓なのか。それを、彼女は聞きたいのだろう。


「先輩は、こんな僕の前でもいつも楽しそうにしてました。この椅子に座って、僕と話をしていた先輩はいつだって笑っていて。先輩が笑ってくれるから僕も凄く毎日が楽しかったです」

いつだって、彼女は笑っていた。とても作りものとは思えない、曇りのない笑顔で。

無邪気で、自由で、汚れの知らない白。そんな色味を感じさせる彼女の笑顔に、慧は何度助けられたことか分からない。だけど、その白は彼女を取り繕っているものに過ぎないことを慧はもう知っている。

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