クールな御曹司の甘すぎる独占愛

◇◇◇

待たせていたタクシーに再び乗り込んだ水瀬は、人知れず小さくガッツポーズをした。

奈々はフリーだった。男の存在はない。その情報を手に入れたのは、今日のなによりの収穫だ。
半ば強引とはいえ光風堂のコンサルに名乗りをあげ、和菓子を買うだけではない口実が増えた。

もちろん光風堂を潰したくない純粋な気持ちもある。あの店の和菓子は、お世辞抜きでおいしいと心から思っている。そうでなければ、三日に一度の買い占めはさすがにできないだろう。

とにかく、今夜は本当にいい夜だった。

水瀬は、店で経営数値を見せてもらいながら、あやうくキスをしそうになったときのことをふと思い出した。

はやまるな。まだ機は熟していない。彼女の気持ちをもう少し掴んでからだ。
自分を諫める。

水瀬は、奈々の気持ちを無視して無理に事を進めたくはなかった。大事に、大切に。女性に対してそこまで慎重になるのは、思い起こせば初めてかもしれない。

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