透明な檻の魚たち
 それから時々、司書室にいるあなたを盗み見するようになりました。

 先生は大人の女性だし、自分でもそう振舞っていたほうに思いますが、ふとした仕草や、気を抜いたときの口調が同級生よりも子どもっぽくて、そんなところが可愛いと、思っていました。

 スーツやパンプス、きっちりとまとめた髪は先生の雰囲気には合っていなかったけれど、先生がそうやって武装していることも、分かっていました。

 それでも先生は、僕の気持ちはただの憧れだと、決めつけるでしょうか。直接訊きたいけれど、それももう叶いませんね。

 先生は、高校生活は水槽だと、透明な檻に似ていると言いましたね。

 だったら僕は、先生と同じ水槽で泳げて幸せでした。

 これから僕は水槽を出ていきます。出た先が新しい水槽だったのか、海だったのか。

 先生はもう、分かっているのでしょう? 透明な檻はなぜそこにあるのか。誰が作ったものだったのか。

 透明な檻を作ったのはあなた自身です、先生。

 あなたは自分で作った檻に、自分から閉じ込められていたんです。

 この言葉が僕から先生への餞別です。卒業するのは、僕だけど。

 僕は、一条透哉という存在をあなたに忘れて欲しくなくて、この手紙を書きました。

 一度目は、夕暮れの図書室で、先生が司書になった理由を当てたとき。二度目は、本屋で会って水槽の話をしたとき。僕は二回も先生の驚く顔を見ることができた。

 こんなに先生を驚かせることができたのが、先生の人生の中で僕だけだったらいい。なんて、柄にもなく殊勝なことを思っています。



 追伸。図書室の本を全部読むという目標は、達成できませんでした。「ゆ」の「指輪物語」で止まったままです。僕もいつか、この場所に戻ってくる気がしています

一条透哉』
< 30 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop