国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい
「貴様、その袋の中身をよこせ」

「し、知らない……これはただ果物が入ってるだけよ」

黒いフードを目深にかぶった男が、流れるような長いマントを揺らしている。そして壁に背中を押し付けながら、喉を鳴らして怯える若い女の鼻先に鋭利で鈍い光を放つ剣を向けていた。その光景を見たミリアンは短く息を呑んだ。

「待って! 待ちなさい!」

きっと物取りに違いない。ミリアンは今にも震えだしそうな声を振り絞ってためらうことなくそう叫んだ。そのふたりの不穏な空気に割って入り込むと、剣を向けられていた女はフードをかぶった男の注意が逸れた隙に素早く夜闇へと逃げ出した。

「あなた、女性に剣を向けるなんて失礼よ」


フードをかぶった男に勇んで言うと、男がすっと剣を下ろした。

「……誰だ?」

百八十は優に超えているであろうその長身は、異様な威圧感さえ感じる。今度は自分に剣を向けられるかもしれないと思うと、ミリアンは護身用に携えていた短剣の柄を握って力を込めた。

「貴様は何者だ?」
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