国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい
目の前の男が憎い。母の仇だ。そう怒りの念がふつふつと沸き起こると、先程までの頭痛がすっと嘘のように消えた。

「レイ様……すみません。ちょっと目眩がしただけで、もう大丈夫です」

自分でテーブルから払い落としてしまった空の水差しを拾い上げる。

(ああ。私、なんてことを……自分で自分の計画を台無しにするなんて)

コップに注がれた水は一見澄んでいた。しかし、得体の知れない実の粉が溶けた水は禍々しく、この水を彼に飲ませてはいけない。というわずかな理性がミリアンを揺さぶった。

(私の中に……誰かがいる)

ミリアンは自分が自分でないことに恐怖と不安を覚え、両腕を掻き抱いた。

「ミリアン」

すると、ぐっと強い力で肩に手を置かれる。勢いよく俯いていた顔をあげるとレイの淀みのない漆黒の瞳が、まるで見守るかのように静かに光をたたえていた。

「ミリアン、今すぐここから出るぞ」

「え?」

「お前は、ジェイスに狙われている」

思わぬことを言われて返す言葉を失う。
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