国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい
「痛っ……」

「どうした?」

レイに支えられた弾みで手渡そうとしたコップが手元から滑り落ち、床に転がると石畳に水の染みが広がった。自分を見下ろす心配げな彼の表情にチクリと胸が痛む。

(やっぱり、私には……できない。レイ様を手にかけるなんて)

そう否定すればするほど頭痛の波が激しく押し寄せる。

「うぅ……あ」

くぐもった呻き声がわずかにこぼれ、鈍器で殴られたような痛みに耐える。頭を抱えてミリアンはレイの腕の中から抜け出すと、頭の中で暴れている痛みに抵抗するように置いてあった水差しをテーブルの上からなぎ払った。派手な金属音を立てて銀の水差しが転がる。

「ミリアン!」

支えられたまま上を向かされると、レイのまっすぐな瞳と視線がぶつかった。

(そうだわ、この男は……絶対に許せない人)

「どうかしたのか?」

ぐっとレイの腕を掴むと、彼は怪訝な表情でミリアンを見下ろした。
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