国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい
「ああ。ミリアン、この男がまだ生きているということは……もしかして失敗しちゃったのかな? 例のものを混ぜた水、飲ませられなかった?」

仕方のない子だ。と言わんばかりにジェイスが眉尻を下げてふふっと不敵に笑った。

「なるほど、あの水差しの水は毒入りだったわけか。所詮、お前の入れ知恵なのだろう?」

「違うよ、レイ。彼女が望んだんだ。君を討ちたい、母上の仇を取りたいって、だから協力してあげただけだよ」

確かにジェイスに協力を煽った。それは否定しない。しかし、ミリアンの中でジェイスに対する違和感が拭えなかった。

「ミリアン、その格好でちょっと走れるか? 私がお前の手を掴んだらそれが合図だ。ここから逃げる」

その時、兵士となにやら話をし始めたジェイスに隙を見出したレイは、ミリアンへ耳打ちするように囁いた。ミリアンは無言でこくりと頷いて、重たいドレスの裾をぐっと握った。

ここは室内だ。剣を振るうにはいささか都合が悪い。それに、下の大広間では前夜祭が行われていて、大勢の人たちを巻き込むわけにもいかなかった。あまりの緊張で鼓動が乱れているのがわかる。

「三、二、一……今だ!」

レイに素早く手を取られ、力強く腕を引かれるのと同時に一気に駆け出す。ミリアンはドレスを足に巻き込まないように必死で裾を掴んだ。
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