国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい
「ミリアン! ここにいたんだね」

聞き覚えのある明るい声に呼ばれてミリアンは我に返った。

「ジェイス、来てたのね。イアンも」

その方を見ると、革で仕立てた豪奢なコートを纏い、少しくせのある栗色をした髪の青年がニコリと笑って歩み寄ってきた。濃茶の瞳に少し目尻の下がった目元は愛嬌があり、甘い顔立ちで気品に溢れた容姿をしている。そして彼の肩には大振りな鷹が威風堂々と載っている。イアンはジェイスが通信手段に調教した鷹で凛々しく穏やかな表情をしているが、鋭い爪と鉤型に曲がったくちばしは猛禽類の特徴を表していた。

「ご機嫌いかがかな? お姫様」

スラリとした体躯をかがめ、少しおどけた口調でミリアンの前に立つ。

ジェイス・ノア・ロンテルムはラタニア王国の隣国であるリムル王国の王太子で、社交的なその性格から他国の王女からもてはやされている絵に書いたような王子様だ。

「機嫌はいいけれど、今日はどうしたの? また王子様がお供をつけずにひとりで出歩いて、怒られるわよ?」

「大丈夫。それに僕はもう子供じゃない、いつまでもお供を連れて歩いていては、こうして美しい姫君にお忍びで会いにもこられないからね」

ジェイスは輝くばかりの笑顔で片目をつぶって見せる。ミリアンは少し頬を染めるとクスッと笑ってその場に座り、彼もまた隣に腰を下ろした。
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