国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい
(なかなか難攻不落なお姫様だな)

ミリアンと別れたあと、ジェイスはひとり宿屋に向かう途中、そんなことを考えていた。

今夜もラタニア王国の街は眠らない。屋台の前で喧嘩をしている中年の男を横目に足早に歩く。実のところ、ジェイスはこの王都が嫌いだった。そしてラタニア王国を尊大に統べる国王レイ・ヴァリエ・リシャールを思い出すと、常に笑顔を絶やさないジェイスは眉間に皺を寄せ、嫌悪を滲ませた。

メザルダ大陸の国々の王族や貴族が集う社交界で十五の時に初めてレイに出会った。自分と同じ年の割には落ち着きはらい、世の中を達観したようなすかした態度が気に入らなかった。そのくせ生まれながらに持ち合わせた恵まれた容姿を持ち、頭も良くて強い。その全てが完成された存在にジェイスは小さな劣等感にも似た感情を抱いていた。そんな男の国にどうしてミリアンが住んでいるのか、静かに輝きをたたえる宝石のような彼女を、ジェイスはどうしても自分のものにしたかった。

(僕たちは出会うべくして出会ったんだ、早くわかってよ……ミリアン)

ジェイスは心の中で語りかけると、ラタニアの喧騒に消えていった。
< 35 / 295 >

この作品をシェア

pagetop