国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい
王都の中心街を抜け緩やかな丘を歩くと、そこにラタニアの核とも言える城が悠然とそびえ立ち、そしてメリアルの塔が城に対峙して見えた。

(こんなところ来たの、初めて)

不安と恐怖はまだ消えないものの、歩いているうちに冷静さを取り戻したミリアンはまじまじと城を見上げた。城を背にした北側には真っ暗な深い森が広がっている。

ミリアンが王都へ行き来するようになったのは、食堂で働き出してからだ。それまでは、街外れの教会で静かに暮らしていた。五歳からこの王国に住んでいるものの、ラタニア城はミリアンにとって未知なる領域だった。

(ここに国王陛下が……)

この国を統率するラタニアの国王は、確かジェイスと同じ年の若き王だったはずだ。話には少し聞いていたが、ミリアンは国王陛下の顔すら知らない。

(いったいどんな人なの?)

ミリアンの胸に、不安という小さな染みが広がっていった――。
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