国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい
誰もいないはずの牢屋に、男の低い声が響いてミリアンは思わず声が出そうになった。ハッとうなだれていた頭をあげ、きょろきょろとあたりを見渡す。

「誰? 誰かいるの?」

長い間暗いところにいたせいか、闇に目が慣れ視界のすみずみまで注意してみるが、やはりそこには誰もいなかった。すると。

「美しい歌だ」

聞き間違いでも幽霊でもなかった。再び聞こえたその声にミリアンはすっと立ち上がった。鉄格子の向こうに確かに人の気配を感じ、南京錠の掛かった格子を握って見える限りのところまで身を寄せると、遠い廊下の奥に人影が見えた。
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