はつ恋【教師←生徒の恋バナ】
古新聞で軽く筆馴らしをした私は、マスターに尋ねた。



「何書いたら、良い?」



「文字限定で、って言うなら…『和』が良いね。

和風とか、和むっていう字にも使われてるし。」



私は戸惑った。



正直、この字を見るのもキツイ。



私にとって『和』は、坂下の名前である『ヒトシ』を一番に思い描くから…。



動揺した心を落ち着かせるように、もう一度墨をすって筆に含ませる。



坂下の顔を思い出してしまえば書けなくなるから、私は一気に書き上げた。



書き上げたものには、自分の動揺がありありと映し出されていた。



だけど、マスターは気に入っているようで、コレを飾るって言うんだ。



私にしてみれば、勘弁して欲しいけど…。



今の私には、これ以上に満足できるものが書けるとは思えなかった。



和風デザートのメニューも書いて欲しいって言うから、引き受けた。



「若菜ちゃん、お礼にスペシャルコーヒー淹れてあげる。」



マスターはそう言うと準備を始めた。












< 155 / 286 >

この作品をシェア

pagetop